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主に政治と経済について、思いついたことを語ります。リンクフリー、コピーもフリー
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 本作は、財務省の現役官僚(以前は主計官を勤めていたようであるからエリート中のエリートである)の米国の経済政策についての考察である。中尾は、以前2002年頃は増税論者だったと思うが、その中尾 武彦による力作である。
 第一章には米国経済の十年間の成果と課題。コラムに、購買力平価によるGDP、経常収支と投資・貯蓄バランス。この辺はまともな経済学によっているので、非常に読みやすく、説明が丁寧で分りやすい。また、昨今のサブプライムローンの「危機」による○○崩壊などいった「煽り」(旧財務省の榊原某のようなトンでも経済学)に似た出版物とも内容的にも大きく異なる。小宮隆太郎の「貿易黒字・赤字の経済学」が参考文献として採り上げられているのを見ても、「まとも」本である。
 経常収支=輸入-輸出=総貯蓄(企業の内部留保、家計の所得から消費を差し引いたもの)-総投資(企業の設備投資、企業の店舗展開などの投資、家計の住宅購入など、尚、株式購入や債券購入はむしろ家計では、投資より貯蓄である)に等しい。米国の経常収支は赤字であり、この赤字は、総需要-総供給に等しい。そして、基本的に世界経済のおおよそ3割をこの赤字によって経済貢献している。別の言い方をすれば、輸入貿易によって米国の経済は成り立ってきた、と言える。
 米国は、お金を借りてまでも消費する社会であることが、この恒等式から云える。企業の内部留保は、比較的多いとされているから、家計の消費が、貯蓄より多いのである。
 本著でも明らかにされているが、サブプライムローンを後押ししたのは、政府、おそらくは共和党の税制の基本であるのだろうが、家計の金利負担を税の控除であろう。つまり住宅購入に当たってのローンの金利負担分を所得税から差し引く住宅控除を認める税制の実施があれば、住宅購入を促進することは十分理解できることである。
 この点の指摘は、貴重である。
 標準的な基本式を使った説明のあるマクロ経済の書籍は、読者自らがそれの運用によってマクロに沿って考えることが出来る。そして、現実の動きがどのようになるかの大まかな予想が立てることにも資する。政府の対策によってどうなるかが大まかにも読めるのが醍醐味にひとつでもある。
 
 2章にグローバル化と技術革新がもたらす変化。成長の中での賃金の低迷、所得格差の拡大の原因、機会への均等への疑問と対応策。など政策家であるが故の「切実」且つ現実的な問題が冷静に取り上げられている。
 
 マクロ経済政策の視点
 
 国際金融のトリレンマとして、為替の安定、中央銀行としての独自性、資本の移動の自由の相互の制約性が取り上げれ、極めてまともな「経済学による俯瞰を述べる。中国は、固定相場制の一種のドルペッグ制をとり、資本に移動の自由の制限がある。中国の金融政策の制約性が、指摘される。
 バーナンキFRB議長の米国の経常収支の赤字についての仮説。米国の貯蓄率の低さは第三諸国の米国に対する輸出にあるという仮説。この仮説の詳しい説明が掲載されている。
 97年以降のアジア通貨危機以降、アジア諸国が、多くのアジア諸国が固定相場制から離脱。それにもかかわらず、自国通貨の減価政策を通じた米国ドルの買いによる預金準備額増額、また、通貨減価政策による米国への輸出、すなわち外需依存への変更。米国への輸出超過は、米国への資本の輸出=米国に対する債権の累積、米国側にとっては、途上国による貸し出しが増えるという、特異な国際経済米国の経常収支赤字、つまり米国の貯蓄不足と投資過剰を第三諸国が維持サポートするという、状態が続いている。
 米国の財政赤字の縮小が、高い名目経済成長率による自然増収に依存することが、示唆されているが、現役の財務省の官僚としては、この指摘は税収確保をまず第一義に考える財務省としては異質な指摘ではあるまいか。財務省としては、税収の安定を本義として政策を組み立てるが、経済成長に税収が依存するということを、基本に据える議論は、彼らにとっては禁じ手であるはず。もっとも、名目の経済成長率が高くなれば、税の自然増収があるというもっともで、標準的な経済学を日本にも適用する議論が財務省側からあってもいいのだろうが、それがほとんど無い。そこに財務省の「税務省」としての立場を放棄したように見るようで、苦笑したが・・・・。

 バーナンキのインフレターゲット論の説明もコラムで取り上げられている。近時の原油高、穀物関係高騰、資源高、サブプライムローン問題に対するFRB、FOMCの対応策も掲載。その印象を言うと、まず不良債権をFRBが買い付けること、公定歩合の引き下げはほどほどに、通貨供給量の拡大は積極的に行っているようで、米国のサブプライムローンのバブル破裂による金融不安は、早晩解消されると思われる。 
 米国に在住したこともあって、サブプライムローンとバーナンキの金融政策が、現場にいるように丁寧に述べられていて、日本の経済紙や経済欄では伺えないところまで詳説してある。
 
 新たな地政学的環境の中での対外政策
 
 米中の戦略的経済対話の内容に突っ込んだ解説。他には、中々見当たらないところも掲載。米国の対中貿易赤字の拡大。貿易赤字の大きさは27パーセントに達したこと。また、中国のドルペッグ制による人民元の増価を米国ドルを買うことによって、人民元安/ドル高政策を採り、輸出競争力を「不当」に向上させていることへの「非難」。米国内の繊維、靴、雑貨、金属業界の雇用被害の米国からの不満。知的財産権保護(中国はWTOに加盟しているので、知的財産権の自由を保護する義務を負う)を反故にし、安価な労働力と食品の安全性を犠牲にしてまでも、輸出力の強化に努めていること。国際社会で問題視されている資源国への援助により資源を買い漁っていること。中国共産党の一党支配による軍事費の増大、外交的な影響力の拡大を志向し、不透明で理解しにくい政治形態であること。
 などから、非経済学的/政治的イデオロギーによる扇動的な保護主義的な動きが米国議会を中心に広がっていることに著者は懸念を示す。この懸念の実質は、米国留学で実際に観測したもので、現場リポートとして興味深い内容だった。
 
 筆者としては、中国は、共産党一党支配からの脱却、三権分立制の確立がないがゆえの先般の四川省の大地震も「おけら工事」か「おから工事」とか言う手抜き、耐震性に不安のある建築であることを技術者が指摘していたにもかかわらず、共産党員や地方官僚はその建築を強硬に実施した。 三権分立と政治的自由、また、発言自由とその保護されるマスコミ体制があれば、建築技術者の危険性の指摘は事前に耳目に注目されていたであろう。 四川省の大地震は政治体制の不備が招いた災害だともいえるのではないか。

 
「おから工事」と批判、国家政権転覆罪に 四川の元教員
2008/06/19(木) 01:09:14 | 中国
【香港=奥寺淳】四川大地震で倒壊した学校の建築手法を「おから工事」と批判した元大学教員(56)が国家政権転覆扇動の容疑で公安当局に逮捕されていたことが18日わかった。香港の人権団体「中国人権民主運動情報センター」が伝えた。今回の地震をめぐる言論が同罪に問われたことが明らかになったのは初めて。

 逮捕されたのは四川省の西南科技大学の元教員・曽宏玲さん。曽さんは海外のウェブサイトに政府批判の文章を3度掲載し、「香港人が建てた校舎は問題なかったのに、なぜ政府が建てた校舎は全壊したのか」と問題提起。豆腐のように簡単に崩れるおから工事が「私たちの子供の未来を奪った」「政府の教育予算が少なかった」と指摘した。

 同センターによると、曽さんは9日夜に公安に連行され、家族が刑事勾留(こうりゅう)の通知書を受け取った。学校の倒壊問題を巡っては、当局は政府批判の封じ込めを強めている。朝日新聞

 また、中国はドルペッグ制を採用しているが、ドルが安くなると人民元が増価すること、つまり輸出に不利になる。これを避けるためドル買い/元売りの政策を採れば、市中にマネーサプライが増え、元の流通量が増えることになり、物価上昇を招く原因なる。原油高、資源高によるコストプッシュインフレに拍車を掛けることになる。このインフレは、賃金上昇があれば、更にインフレの期待を膨らませることになる。
 インフレを抑制するためには、中央銀行のベースマネーの絞込み、すなわち市中の元を買うことによって金融引き締めをしなければならないが、金融政策の当局は、元安政策にスタンスを置き換えているために、引き締め政策を採れないジレンマに陥る。
 中国は、この危険を緩和するため、資本の移動の自由を制限しているが、97年のタイのバーツの崩落から始まったアジア通貨危機に見舞われたアジア諸国と同じように資本移動の自由をドルペッグ制下で認めれば、インフレによる金融引き締めによって、金利の上昇を招き、これを目当てに外国資本の流入が起き、更なる引き締め政策が必用となり国内経済の景気を必要以上に不況に落としこめることになるだろう。
 
 米国の他国への援助対策などが日本のODAと比較して採り上げられている。

 最終章は、米国の金融業界のありようが記されているが、米国の金融業界の競争は、激しく、商品開発力が図抜けている、と思う。ファンドのあり方、証券会社の銀行の優位、金融技術の開発力、など良くも悪くも米国は抜きん出ている。
 
 本著の内容から外れるが、米国の歪んだ社会性はいたるところにある。 所得の差が低所得のものと経営者の上位層との差は400倍だともいわれる米国社会。
 メディケイドにも参加出来なく/せずにいる健康保険未加入の大衆が、6500万人も存在する。人口が2億5000万から推察する就業人口は、その半分ほどからすれば、未加入者は就業人口の半分ほどになるだろうか。こうした一部を見ても、米国の社会の内部の差は、なんともすさまじい。
 
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