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現代史の争点 (文春文庫)
秦郁彦の現代史の論考。現代史の主として4つの項目について歴史的検証を経て中核に切り込んでいる重要な論考が収められている。4つの現代史の争点のひとつは南京虐殺事件。南京虐殺事件は中国が述べるような膨大なものではなかったが規模が小さくはあったとして極右と極左(特にアイリス・チャンの「レイプ・オブ・ナンキン」の虐殺「証拠写真」の捏造を徹底的に暴いて糾弾する。その他の争点では、従軍慰安婦の件が扱われる。それについては、従軍慰安婦の存在自体を否定することはしないし、また、日本国の法的責任は無いがその道義的責任まで否定するものではないとする。


他国からの強制連行は歴史的には大規模なそれは無かったと歴史的に論証、東條英機の開戦責任と戦争責任の追究、日中戦争(支那事変)の発端とされる盧溝橋事件の日本陸軍の「謀略説」の否定、つまりは中国の共産党の謀略を説く。 
 そして、その4つの事項の他、旧陸軍士官学校の42期生である加登川幸太郎氏を迎えて、旧陸軍の戦闘と戦争の違いをわきまえない作戦部の実行責任を問い、南方の戦線で亡くなった「戦死者」の7割が、餓死、あるいは栄養失調の結果、病の併発によったことを述べる。「兵士」が戦闘で亡くなったわけではないとはいかばかりのことか。

 作戦部の戦闘戦略の出鱈目な3面性を採り上げ、服部卓四郎、辻政信、などの参謀の責任を追究する。さらに士官学校の幼年学校と中学校の教育方法に話が及び、兵学の基本として「なざることなかれ」と「遅疑することなかれ」が徹底的に叩き込まれたと回想するが、そこに戦闘現場でのあり方としては正当ではあるものの、国家全体の戦争指導としては適切ではない教育方法であった、と断定する。そのほか無視するには重過ぎる事態が論じられている。 秦の言論は、確実なもののように思える。というのも、その手際が丹念で、実証的であり、また、歴史を採り上げることが膨張することに一種の危惧を持っているところが「歴史」の膨張性の怖さでもあるだろうが、それを知悉している姿勢を支持したいと思わせる語りが掲載されている。内外左右のいかなる勢力にもはばかることなく冷静に考察し、明快な推理を展開する姿勢が、爽快でもあった。

 政治的右派、左派も一読の価値がある。
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