【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 甘い鳩山東アジア共同体構想
田村秀男の発言は中国のしたたかな元の政策に注目していて面白い。
「アジアでの人民元の浸透作戦は、まさしく解放区方式を思わせる。まず国境周辺のベトナム、ラオス、ミャンマー、北朝鮮、さらにロシア極東部と交易を通じて人民元建てのビジネスを活発にする。」
「 ◆作戦の担い手は2つの銀行
人民元のアジア通貨化作戦の担い手は、最大の国有商業銀行である中国工商銀行と国際化が最も先行している中国銀行である。
まず工商銀行は09年9月、インドネシア企業向けに人民元を融資した。中国企業との貿易決済用で、中国証券報によると「世界初の人民元貿易金融取引」だという。工商銀行はこれを機に、ASEAN向けなど対外貿易決済用の人民元資金融資を一挙に拡大するつもりだ。中国工商銀行はマレーシアで商業銀行免許を取得し、現地法人の設立準備を進めている。タイでは大手の地元銀行買収に乗り出した。
中国銀行は香港法人を拠点にインドネシア、シンガポール、タイ、マレーシアでの支店で人民元決済業務を拡大させる。10月下旬には、ブラジルと中国の企業に対して初めて人民元決済融資に踏み切った。
北京は人民元建て決済促進のためには外銀も使う。香港に一大拠点を持つ英国の香港上海銀行グループ(HSBC)は11月、インドネシアで人民元建ての貿易決済サービスを開始した。HSBCはインドネシアで貿易金融、インドネシア・ルピアと人民元の両替、輸出入金融など幅広く人民元取引サービスを提供する予定だ。さらにマレーシア、タイ、シンガポール、ベトナム、ブルネイにも同様の業務を展開する。中国が思い切った人民元経済圏拡大に踏み切るきっかけになったのは「リーマン・ショック」である。中国は未曾有の金融危機が起きると、ただちに人民元をドルにペッグ(釘打ち)し、対ドル・レートを固定した。中国の取引先は為替変動リスクを被る恐れがなくなり、相手も人民元建て貿易決済を受け入れる。同時に、ドルの大量発行にあわせて人民元札の印刷機をフル回転させている。人民元の大河は周辺アジアに注ぎ込み、拡散する。」