米中間選挙 ある日突然、自宅にこんな電話がかかってくる。 「あなたはスノーモービルの愛好者ですよね。でも、環境保護に熱心な民主党候補が当選したらスノーモービルは使いにくくなるかも。共和党候補ならそんなことにはなりませんがね」 やみくもに自党への支持を訴えるより、有権者個々人にまつわる詳細な情報を徹底分析、自陣への支持獲得に結びつくよう効率的に説得を図る選挙戦術。「マイクロターゲティング」と呼ばれるこの手法は、膨大な個人情報のデータベースが基盤となる。共和党全国委員会が一九九〇年代半ばに開発したデータヘース、その名も「有権者の貯蔵庫」は支持政党や人種、宗教などにとどまらず、クレジットカードの決済内容、マイカーの車種、購読雑誌、通っているスポーツジムなどの雑多な個人情報を網羅。米紙によれば、愛用の歯磨き粉やソフトドリンクの銘柄まで把握しているという。
この「貯蔵庫」は、今回の中間選挙に向けても既に効果を発揮した。 九月、ロードアイランド州の共和党上院議員予備選は、政権のイラク政策を批判する現職リンカーン・チエイフィー氏と、新人でクランストン市長のステイーブ・ラフィー虎が公認候補を争った。党全国委はリベラル色の強い同州で、保守派のラフィー氏を擁立すると、本選挙で民主党に負けると判断。「貯蔵庫」を駆使して、チェイフィー氏への党員支持拡大を画策したのだった。
同州チャールズタウンで自動車販売店を営むグレッチェン・ティングレーさん(五二)は、予備選投票日の直前、チェイフィー陣営から電話や手紙で支持を求められた。「私は社会保障間題に最も関心が高かったが、向こうの説得も社会保障閻題に絞られていた」と、戦術の的確さを証言する。全国委の思惑通り、予備選挙を制したのはチェイフィト氏だった。
「今回、共和党はロードアイランドの予備選で、全有権者に五回ずつ電話を入れたと聞いている。しかも、個々の有権者の政策的な関心を知った上でだ」。
オハイオ州立大のピタースイアー教授は「力強い政治的兵器としてのマイクロターゲッティングの効果を分析した。「共和党はマイクロダーゲティングにより、民主党の縄張りの中に隠れている共和党支持者を探し当てることもできる」という。
民主党も技術開発を急ぐが、まだ共和党の「足元にも及ばない」 (同教授)とされるマイクロターゲティング。その効用が本選挙の結果にどう響くか、注目されている。
(ワシントン・小乗康之)