経済政策の原点に帰れ
6年あまり続いたこの連載も今回が最終回となった。連載が始まったときの経済も厳しかったが、いまはもっと厳しい。1―3月期の実質GDP(国内総生産)伸び率は、年率換算でマイナス15.2%だ。株価も少し戻ったとは言え、ようやく9000円台だ。インドやブラジルの株価は、リーマンショック前の水準に戻り、中国は既に上回っている。
日本はアジアと同様に米国発の金融危機の影響をさほど受けていなし、原油や穀物の高騰の影響もなくなったのに、なぜ、景気が戻らないのか 私は、答えは簡単だと思っている。
景気対策としての財政出動や金融緩和が十分でないからだ。昨年度に決まった1次から3次の経済対策は、真水で合計10兆9000億円、そして現在、国会審議中の経済危機対策が15兆4000億円でだ。合計26兆3000億円の経済対策は、GDPの5%だ。中国はGDPの15%の景気対策を打っているから、日本の経済対策の規模は、ずっと小さいのだ。
ただ、財政は曲がりなりにも動いているのに対して、全く動いていないのが金融政策だ。日銀はCPや外債、銀行保有株の買い取りなど派手な動きで金融緩和をアピールしているが、その実4月のマネタリーベースの前年比伸び率は、8.2%に過ぎない。2002年4月の伸び率は36.3%だった。小泉内閣の時代に景気が拡大したのは、構造改革が奏功したのではない。この金融緩和が成長の原因だったのだ。
02年と現在のどちらの景気が厳しいかは、明らかだろう。それなのに日銀はいまだにゼロ金利にさえしていない。そして、22日の金融政策決定会合で、日銀としての景気判断を上方修正したから、今後金融緩和が行われる可能性はますます低くなった。金融緩和はインフレを招くと主張をするエコノミストも存在するが、米国は4月に前年比123%もマネタリーベースを伸ばしているのに、消費者物価は前年比0.7%の下落だ。いまのような経済環境で、インフレを心配する必要性は皆無なのだ。
にもかかわらず、与謝野馨大臣は、「日銀にこれ以上の金融緩和を求めることは無理がある」と日銀の「金融引き締め」に理解を示し、民主党も金融緩和に否定的な議員が多い。だから、政権交代が行われたとしても、景気が急回復する可能性は低いのだ。
本当に景気拡大を目指すなら、いますぐ日銀法を改正して、総裁を交代させるべきだろう。最後に連載初回に書いたことを繰り返す。1933年、アメリカで3年半にわたる株価低迷から劇的な株価上昇が起こったのは、FRB(連邦準備制度理事会)議長の交替がきっかけだった。
森卓先生吠えているなぁ。TVに出ているエコノミストで、金融政策についてまともなことを言っているのは、森卓先生と宮崎哲弥ぐらいだ。他の政策についての森卓先生のコメントは、疑問なことがあって同意できないととこがろがあるのだが、金融政策についてはまったく同感である。ここで取り上げた森永卓郎先生の評論は、09年5月の時点の発言であるから、財務大臣が与謝野であるときの発言である。民主党の藤井財務大臣も昨今の発言を聞いている限りでは、金融政策にはまったく無知、無頓着であるからほぼ同じようなもので、期待は出来ない。
民主党不況は、どこやらの新聞紙のご意見、ご高説とは異なり、金融政策から起きる。 06年3月の量的金融緩和解除、07年の二回の金利引き上げ以降、 いったんは景気回復の気味という「観測」から、株価は上昇。07年の日本の株価は13000円台間で上昇したがそれ以降、だら下がり、リーマンショックによって9000円台にまで下落、金融緩和と財政出動を受けて平均株価は上昇、10300円が年初の高値となった。13000円台にまで復帰してこそ、民間経済の自律的回復といえる。政策が大きく経済全般を左右するということを、市場関係者は忘れてしまって、日経平均の上下を眺めているのだろう。
サブプライム、リーマンショックの発信元である米国の株価が、年初来の高値を昨日付けたのとは大違いの状況である。この違いは、日本と米国の緩和策の大きさに起因するのであって、「構造」に起因するのではないことが理解できる。
補足:中国経済の眺め方は、森卓先生とは違って、ドルペッグ制と資本移動を規制しているので、財政政策の効果があるのであって、それほどの金融政策は財政政策ほど効果を持たない。中国株が上昇しているのは、巨額の財政政策が起因しているのだろう、と思う。
この財政出動は、共産党という選挙が全くないとてつもなく大きな官僚機構=政治の実権を握り、党員であること、権力者であることによって賄賂、公共事業による開発を事前に知ることなど、企業家と官僚がごっちゃになっているので官僚=党員である利権を活用しながら富の蓄積ができる政治経済「構造」がある。政治=経済のいびつな腐敗構造があるのである。よって、中国の株価上昇と日本の株価上昇を、金融緩和不足として扱うことは難しいのではないかと思う。